大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和51年(ネ)326号 判決 1977年2月28日

控訴人 住友海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 伊藤清敏

右訴訟代理人弁護士 伊達利知

同 溝呂木商太郎

同 伊達昭

同 沢田三知夫

同 奥山剛

被控訴人 綿谷克己

被控訴人 綿谷初子

右両名訴訟代理人弁護士 打田等

主文

原判決を取消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

一  申立

1  控訴人は主文同旨の判決を求めた。

2  被控訴人らは「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  主張及び証拠関係《省略》

理由

一  請求原因1の事実及び訴外貞美が本件自動車を所有し、自己のために運行の用に供していたことはいずれも当事者間に争がない。

二  控訴人は、被害者は本件事故当時、加害車の運行供用者たる地位にあったから自賠法三条に定める「他人」に該当せず従って訴外貞美は被控訴人らに生じた損害を賠償する責任はない旨主張するので検討する。

《証拠省略》によれば、本件自動車は訴外貞美がレジャーに使用する目的で昭和四九年ごろ自己の名義で購入したものであるが、昭和五〇年七月一二日昼頃被害者は兄貞美から風早駅付近の広場に駐車していた本件自動車を人の邪魔にならぬよう駐車位置を変えてくれるよう依頼され本件自動車の鍵を預っていたところ、同日午後六時過頃友人の河内洋一らに麻雀に誘われ、被害者は兄貞美に断ることなく本件自動車を運転して広島県豊田郡安芸津町大字風早一四七五番地の三の河内洋一方に赴き同人方前に駐車し、河内洋一、小島正利、行友茂師らと共に一たん夕食のため河内洋一の車で外出したのち再び右洋一方に帰り、午後七時過頃から麻雀を始めたが、午後八時三〇分頃停電となり扇風機も使えず暑いためドライブして涼をとろうと考え、河内洋一、行友茂師、被害者が洋一宅を出たところ、同人宅前に車三台が一列に並んでいて河内洋一の車が真中にあり直ぐ運転できなかったので一番後ろにあった本件自動車の運転席に河内洋一が乗りこみ、後部右座席に被害者が左座席に行友茂師が同乗して出発し、国道一八五号線を進行中、同八時四〇分頃本件事故を惹起したものであることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によれば被害者は麻雀をする目的で本件自動車を運転して河内洋一方に赴き同人方前に駐車し、同家内で麻雀をしていたものであるから、本件自動車を支配管理し運行による利益を享受する立場にあったものは本件自動車を持出してきた被害者自身であること明らかであり、河内洋一の本件自動車の運転も、麻雀途中一時涼をとるためのものであって、同乗した被害者の承諾のもとになされたものと推認するほかなくその間も被害者の本件自動車の運行を支配し運行利益を享受する立場は失なわれていないと解するのが相当である。

そうすると被害者は本件自動車の運行供用者たる地位にあったと認められるから、自賠法三条に定める「他人」には該当しないといわなければならない。

(なお訴外貞美は本件自動車の所有者であり運行供用者の地位を有することは争いのないところであるが、本件事故を惹起した河内洋一の本件自動車の運転に関して言えば、事故当時貞美は被害者の運行支配を介して本件自動車につき運行支配を有していたと解すべきであり、被害者の右運行支配を否定するとすれば、河内洋一の運転は貞美に対する関係では泥棒運転と異るところはなく、この点で本件事故につき貞美の責任を問う余地はないこととなるのである。そしてまた、貞美が被害者と右のような関係での共同運行者の地位にあるからといって、河内洋一の本件自動車の運転によって生じた本件事故につき、被害者が保有者たる貞美に対し自賠法三条の他人であることを主張することが許されないのはいうまでもない。)

三  以上の説示によれば控訴人らの本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当であり棄却を免れないので、これと判断を異にする原判決は取消しを免れない。よって原判決を取消して被控訴人らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九三条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 胡田勲 裁判官 高山晨 下江一成)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例